長唄、端唄、小唄は、どれも三味線と唄に関わる日本の伝統音楽として語られるため、名前だけを見ても違いがつかみにくい分野です。
しかし実際には、長唄は歌舞伎や日本舞踊の舞台と深く結びついた劇場性のある音楽であり、端唄は江戸の町で親しまれた短い流行歌の性格が強く、小唄は端唄を母体にしながら座敷の空気に合う繊細な表現へ磨かれてきた音楽です。
三つを比べるときは、曲名の雰囲気や漢字の印象だけで判断するより、どこで演奏されてきたのか、三味線を撥で弾くのか爪弾きするのか、歌詞が舞台的なのか生活感に近いのかという視点を持つと一気に理解しやすくなります。
本稿では、初心者が混同しやすい長唄、端唄、小唄の境界を、歴史、音色、演奏場面、習い始める目的、鑑賞時の聴きどころまで順に整理し、邦楽教室や公演案内を見たときに自分に合うジャンルを選べる状態を目指します。
長唄・端唄・小唄の違いは演奏される場で見分ける

三つの違いを最初に押さえるなら、長唄は劇場や舞台、端唄は江戸の町と寄席や座敷、小唄は座敷の近い距離感というように、音楽が育った場所から見るのが最もわかりやすい方法です。
長唄については文化デジタルライブラリーが歌舞伎舞踊の伴奏音楽として生まれた三味線音楽と説明しており、端唄や小唄については同ライブラリーの端唄・小唄解説や日本小唄連盟の小唄Q&Aを合わせて読むと、成立した場と弾き方の差を軸に整理できます。
ここではまず、それぞれの性格を一つずつ分けて見ていき、最後に一覧表と選び方の目安で全体像を確認します。
長唄は舞台の音楽
長唄は、歌舞伎舞踊の伴奏として発展した三味線音楽なので、三つの中では最も舞台性が強いジャンルです。
唄と三味線だけで演奏される曲もありますが、舞台では小鼓、大鼓、太鼓、能管、篠笛などの囃子が加わることもあり、物語の場面、人物の動き、季節感、緊張感を大きな構成の中で描きます。
初心者が長唄を聴いたときに端唄や小唄より壮大に感じやすいのは、曲の長さだけではなく、舞踊や芝居の進行を支えるために前奏、間、合方、盛り上がり、締めがはっきり作られているからです。
代表的な曲には歌舞伎や日本舞踊で知られる演目が多く、歌詞にも故事、和歌、能楽、古典文学の言葉が入るため、江戸の町の軽い流行歌というよりも、舞台芸術として鑑賞する性格が強くなります。
習い事として選ぶ場合は、声をしっかり出したい人、日本舞踊や歌舞伎が好きな人、大きな曲を時間をかけて学びたい人に向きますが、短期間で一曲を気軽に楽しみたい人には少し重く感じることもあります。
端唄は江戸の短い流行歌
端唄は、短い三味線伴奏の歌曲として江戸の町で親しまれた音楽で、長唄ほど劇場的ではなく、小唄ほど内向きに絞り込まれていない中間的な存在です。
文化デジタルライブラリーでは、端唄は江戸時代末期に江戸市中で大流行し、日々の出来事、四季の移ろい、恋の機微などを歌った娯楽性の強い音楽として紹介されています。
曲の雰囲気は明るく、歯切れよく、どこか町人文化の軽みを感じさせるものが多く、座敷や寄席で親しまれた背景もあって、聴く人との距離が比較的近い音楽といえます。
端唄は小唄の母体として説明されることが多い一方で、小唄よりも撥弾きの明るさや節回しの素直さが前に出やすく、技巧的な陰影よりも曲そのものの親しみやすさを楽しみやすい点が特徴です。
そのため、邦楽に初めて触れる人が長唄の大曲に入る前に、三味線歌曲の言葉づかい、節の流れ、江戸情緒を短い曲で味わう入り口として端唄を選ぶのは自然な選択です。
小唄は余白を聴かせる座敷唄
小唄は、端唄を母体にしながら、より短く、粋で、親密な表現へ洗練されていった三味線歌曲です。
一般に小唄は撥を使わず爪弾きで演奏されることが大きな特徴として語られ、三味線の音を強く響かせるよりも、柔らかい音色、言葉の間、声の含みを大切にします。
長唄のように舞台全体を動かす音楽ではなく、端唄のように町の流行歌として開かれた明るさを前面に出す音楽でもなく、近い距離で聴く人にだけ伝わる機微を味わう音楽だと考えると理解しやすくなります。
歌詞は短い中に恋、季節、別れ、待つ心、江戸の洒落などを織り込み、はっきり説明しすぎないことで余韻を残すため、初心者には意味がつかみにくい反面、慣れるほど深く感じられます。
習い事としては、派手な舞台表現よりも声のニュアンスを磨きたい人、短い曲を積み重ねたい人、江戸の粋な言葉や間の美しさに惹かれる人に向くジャンルです。
伴奏の形が違う
三つはどれも三味線と唄に関わりますが、伴奏の形を見ると長唄、端唄、小唄の違いがかなり明確になります。
長唄では唄方、三味線方、囃子方という分担が生まれやすく、曲や舞台によっては複数の唄と複数の三味線が並び、鳴物も含めた厚い響きで場面を作ります。
端唄は唄と三味線の組み合わせが中心で、標準的には比較的小さな編成で演奏されるため、長唄より身近で、曲の輪郭や歌詞の楽しさが直接伝わりやすい音楽です。
小唄は爪弾きの柔らかな三味線と抑えた唄が魅力で、音を大きく広げるよりも、声と糸の細い揺れを近い距離で感じることに価値があります。
同じ細棹三味線を使う場合でも、舞台に届かせる長唄、町の座興として響く端唄、近い空間で余韻を残す小唄という違いを意識すると、音量や弾き方の差が単なる技術差ではなく文化の差として見えてきます。
歌詞の距離感が違う
歌詞の内容も三つを見分ける大きな手がかりで、長唄は舞台や舞踊に関わる言葉、端唄は生活や季節に近い言葉、小唄は短い言葉の裏に情緒を含ませる言葉が多くなります。
長唄の詞章には古典的な語句や物語性が入りやすく、踊りの場面を支えるために、景色、人物、心理、動作が長い流れの中で配置されます。
端唄の歌詞は江戸の市井感覚が近く、日常の情景、恋のやり取り、旅や名所、季節の風物を気軽に歌い込むため、意味を追いやすい曲も少なくありません。
小唄の歌詞は説明を省いた短い表現が多く、たとえば待つ、忍ぶ、別れる、気づかれないように思うといった心情を、わずかな言葉の選び方や唄い口で伝えます。
初心者は意味がわからない歌詞を前に身構えがちですが、長唄は舞台の場面、端唄は江戸の情景、小唄は心の余白という入口を持つだけで、同じ古風な言葉でも聴き方が変わります。
曲の長さが違う
長唄、端唄、小唄の違いは曲の長さにも表れますが、長いから長唄、短いから小唄という単純な分類だけでは不十分です。
長唄は舞台伴奏や鑑賞曲としてまとまった構成を持つことが多く、前半から後半へ展開しながら景色や感情を広げるため、初心者には一曲が大きな物語のように感じられます。
端唄は短く気軽に演奏しやすい曲が多く、歌詞と旋律のまとまりを数分で楽しめるため、長唄のような大構成を追うというより、一つの情景を切り取って味わう感覚に近いです。
小唄も短い曲が中心ですが、短さの意味が端唄とは少し異なり、少ない言葉と少ない音で余韻を作るため、聴き終えた後に含みが残るような密度があります。
つまり、長唄は長さによって舞台の広がりを作り、端唄は短さによって親しみやすさを作り、小唄は短さによって粋な余白を作ると考えると、時間の差が表現の差として理解できます。
稽古の目的が違う
習い事として見ると、長唄は舞台で通用する声と三味線を身につける方向へ進みやすく、端唄は短い曲を通じて江戸の唄三味線に親しむ方向へ進みやすく、小唄は言葉の間や粋な唄い口を磨く方向へ進みやすいです。
長唄の稽古では、節を正確に取るだけでなく、声量、発音、拍の取り方、曲全体の構成感、囃子や舞踊との関係を意識する場面が増えていきます。
端唄の稽古では、比較的短い曲を通して三味線と唄の関係をつかみ、歌詞の情景を明るく自然に出すことが大切になり、邦楽の入口として続けやすい面があります。
小唄の稽古では、声を張るよりも含ませること、音を鳴らすよりも止めること、意味を説明するよりも余情を残すことが重視されやすく、年齢を重ねてから始めても味わいを育てやすい魅力があります。
どれが上級でどれが初心者向けという序列ではなく、舞台性を学びたいのか、短い江戸唄を楽しみたいのか、粋な余韻を磨きたいのかで選ぶことが大切です。
全体像は表で整理する
三つを一度に理解したい場合は、歴史の細部よりも、主な演奏場面、音の印象、歌詞の性格、学ぶ目的を並べると混同しにくくなります。
特に長唄と端唄はどちらも撥弾きの三味線歌曲として接点があり、端唄と小唄は母体と派生の関係で語られるため、表にして差分を見たほうが初心者には理解しやすいです。
| 項目 | 長唄 | 端唄 | 小唄 |
|---|---|---|---|
| 主な場 | 歌舞伎舞踊や舞台 | 江戸の町や座敷 | 座敷の近い空間 |
| 音の印象 | 華やかで構成的 | 明るく親しみやすい | 柔らかく余韻がある |
| 三味線 | 撥弾き中心 | 撥弾き中心 | 爪弾き中心 |
| 歌詞 | 舞台的で古典的 | 生活感や季節感 | 恋や粋を短く表現 |
| 向く人 | 舞台芸能が好きな人 | 江戸情緒を楽しみたい人 | 繊細な表現を好む人 |
表で見ると、長唄は大きく見せる音楽、端唄は親しみやすく歌う音楽、小唄は近い距離で含みを聴かせる音楽という違いが浮かび上がります。
迷ったら場面で選ぶ
三つのどれを聴くか、または習うかで迷った場合は、音楽理論から入るよりも、自分がどの場面に惹かれるかを考えるほうが失敗しにくいです。
歌舞伎や日本舞踊の舞台を見て胸が高鳴る人は長唄に向き、江戸情緒のある短い唄を気軽に楽しみたい人は端唄に向き、静かな座敷の空気や余韻に惹かれる人は小唄に向きます。
- 舞台の華やかさを味わうなら長唄
- 江戸の短い唄を楽しむなら端唄
- 粋な余韻を深めるなら小唄
- 日本舞踊と合わせるなら長唄か端唄
- 声を張らずに味わうなら小唄
もちろん一つに絞る必要はなく、端唄から小唄へ進んだり、長唄を聴いてから舞踊や歌舞伎へ関心を広げたりすることで、邦楽全体のつながりが見えやすくなります。
歴史を知ると三つの境界が見える

長唄、端唄、小唄は、現在の分類だけを見ると別々の教室や演奏会で扱われますが、歴史をたどると江戸の劇場文化、町人文化、座敷文化の重なりの中で互いに関係してきたことがわかります。
長唄は歌舞伎の発展と歩調を合わせ、端唄は江戸市中で人々に親しまれる短い歌曲として広まり、小唄はその流れからより繊細な表現を求めて育っていきました。
ここでは年代を細かく暗記するより、どの文化圏で必要とされた音楽なのかを追いながら、三つの境界がどう作られたのかを整理します。
劇場文化が長唄を育てた
長唄は、江戸の歌舞伎舞踊が発展する中で、舞台上の踊りや芝居の情景を支える音楽として存在感を強めました。
文化デジタルライブラリーでは、長唄という音楽名が江戸時代の宝永期ころから使われ、現在の基盤が歌舞伎舞踊の発展した享保期ころに作られたと説明されています。
劇場で求められる音楽は、単に美しい旋律を奏でるだけでなく、登場人物の動きに合わせ、場面転換を助け、観客の視線を舞台へ集中させる役割を担います。
そのため長唄は、短い流行歌のように一つの気分をすぐ伝えるよりも、複数の場面を持つ大きな曲として発展し、唄、三味線、囃子の分担によって華やかな音響を作るようになりました。
長唄を聴くときは、声や三味線の技巧だけでなく、舞台の身体表現を後ろから押し出す力があるかどうかに耳を向けると、端唄や小唄とは異なる魅力が見えてきます。
町の流行が端唄を広げた
端唄は、江戸の町で人々が気軽に歌い、聴き、覚えられる短い三味線歌曲として広がった音楽です。
長唄が劇場の大きな空間と結びつくのに対し、端唄は暮らしに近い場面、座興、寄席、町の流行と結びつきやすく、歌詞にも日常の景色や恋のやり取りが入りやすくなります。
| 歴史の視点 | 見える特徴 |
|---|---|
| 江戸市中の流行 | 短く覚えやすい |
| 座敷での演奏 | 親しみやすい |
| 寄席での広がり | 娯楽性が強い |
| 小唄への影響 | 母体として重要 |
端唄の魅力は、芸術性が低いという意味ではなく、短い曲の中に江戸の生活感、洒落、季節、男女の心情をすっと入れ込む軽やかさにあります。
初心者が歴史を学ぶときは、端唄を小唄の前段階としてだけ見るのではなく、江戸の流行歌として独自の明るさを持つ音楽として捉えることが大切です。
座敷文化が小唄を磨いた
小唄は、端唄の流れを受けながら、座敷での近い距離に合うように表現を絞り込み、爪弾きの柔らかな音色と短い歌詞の余韻を重視する方向へ進みました。
日本小唄連盟の説明では、端唄は小唄の母体として位置づけられ、小唄は撥を使わない爪弾きの特徴によって一つのジャンルとしてまとまっていったことが示されています。
- 端唄を母体にした流れ
- 爪弾きによる柔らかな音
- 短い歌詞に込める情緒
- 近い距離で味わう座敷性
- 説明しすぎない粋な表現
小唄が難しく感じられる理由は、音が少ないから簡単なのではなく、音が少ないぶん、声の置き方、言葉の含ませ方、間の取り方が作品の印象を大きく左右するからです。
歴史の流れで見ると、長唄は劇場で大きく構成され、端唄は町で短く親しまれ、小唄は座敷でさらに余白を磨いた音楽として整理できます。
音色の差は三味線の扱いに出る

長唄、端唄、小唄の違いは、歴史や演奏場所だけでなく、三味線の扱いにもはっきり表れます。
同じ細棹三味線という言葉を見ても、実際の印象は撥の当たり方、爪弾きの柔らかさ、複数で合奏する厚み、囃子の有無によって大きく変わります。
音色に注目できるようになると、公演動画や稽古場の演奏を聴いたときに、文字情報がなくても三つを判別しやすくなります。
撥弾きは輪郭を出す
長唄や端唄でよく意識される撥弾きは、弦をはっきり弾き、音の立ち上がりやリズムの輪郭を出しやすい奏法です。
長唄では舞台空間に音を届ける必要があるため、撥先が弦や皮に当たる明快な音が、踊りの拍や場面の勢いを支える働きをします。
端唄でも撥弾きの明るさは曲の親しみやすさに関わり、短い歌詞と旋律を軽快に運ぶことで、江戸の町の流行歌らしい歯切れを感じさせます。
| 撥弾きの印象 | 現れやすいジャンル |
|---|---|
| 音が立つ | 長唄 |
| 拍が明確 | 長唄 |
| 軽快に進む | 端唄 |
| 歌詞が届きやすい | 端唄 |
撥弾きだから粗いということではなく、音の輪郭をどう生かすかによって、長唄では舞台の力になり、端唄では町の軽やかさになります。
爪弾きは余韻を作る
小唄を語るうえで重要なのが爪弾きで、撥を使わず指先で弦を弾くことにより、柔らかく控えめな音色が生まれます。
爪弾きは大きな劇場に響かせるための奏法というより、座敷や小さな空間で声と三味線が寄り添うための奏法として理解すると自然です。
小唄では、三味線の音が強く前に出すぎると歌詞の含みや声の細かな揺れが消えてしまうため、音を鳴らす技術だけでなく、音を残しすぎない抑制が大切になります。
- 音量よりも近さ
- 強さよりも柔らかさ
- 説明よりも余韻
- 拍の明確さよりも間
- 派手さよりも粋
爪弾きの小さな音を退屈と感じるか、深い余白と感じるかは聴き方によって変わるため、小唄を聴くときは音の少なさそのものを味わう姿勢が必要です。
囃子の有無で広がりが変わる
長唄では、曲や演奏形態によって囃子が加わることがあり、この点が端唄や小唄との印象差を大きくします。
囃子が入ると、舞台の季節、場所、登場人物の動き、緊張や高揚が音で示され、唄と三味線だけでは出しにくい空間の広がりが生まれます。
日本芸術文化振興会の長唄研修ページでも、長唄は黒御簾音楽として情景や心情を表現し、所作事では鳴物とともに舞台上で演奏すると説明されています。
端唄や小唄は、基本的には唄と三味線の近い関係を味わう音楽なので、長唄のような囃子入りの華やかな舞台感とは別の魅力を持ちます。
鑑賞時に太鼓や笛が入って華やかに展開しているなら長唄の可能性が高く、唄と三味線が近い距離でまとまっているなら端唄や小唄の世界に近いと考えると聞き分けやすくなります。
初心者が選ぶなら目的を先に決める

長唄、端唄、小唄は、どれが最も正統でどれが簡単という序列で選ぶものではなく、自分が何を楽しみたいかによって向き不向きが変わります。
舞台芸能を深く学びたいのか、短い江戸唄を気軽に楽しみたいのか、声と三味線の繊細な余韻を味わいたいのかを先に決めると、教室選びや公演選びで迷いにくくなります。
ここでは、習い始める人や鑑賞の入口を探す人に向けて、目的別に三つの選び方を整理します。
舞台曲を学ぶなら長唄
歌舞伎、日本舞踊、舞台音楽に関心がある人は、長唄を選ぶと三味線音楽が舞踊や芝居と結びつく面白さを学びやすくなります。
長唄の稽古では一曲の長さや構成が大きいため、最初は節を追うだけでも大変ですが、続けるほど場面展開、詞章の意味、三味線の合方、囃子との関係が見えてきます。
- 歌舞伎が好き
- 日本舞踊に関心がある
- 声をしっかり出したい
- 大きな曲に取り組みたい
- 古典の詞章を味わいたい
一方で、長唄は短期間で何曲も気軽に覚えるというより、一曲を丁寧に積み上げる性格が強いため、忙しい人は稽古のペースや発表会の有無を確認しておくと安心です。
舞台曲を学ぶ目的が明確なら長唄は非常に奥深い入口になりますが、まず三味線歌曲の雰囲気だけを軽く味わいたい段階では端唄や小唄のほうが入りやすい場合もあります。
短い曲を楽しむなら端唄
端唄は、長唄ほど大きな構成に身構えず、短い曲で江戸情緒や三味線歌曲の楽しさを味わいたい人に向いています。
曲の長さが比較的短いため、初心者でも一曲の全体像をつかみやすく、歌詞の情景、季節感、軽やかな節回しを一つずつ楽しめます。
| 目的 | 端唄が合う理由 |
|---|---|
| 短い曲を覚えたい | 全体像をつかみやすい |
| 江戸情緒を知りたい | 生活感のある歌詞が多い |
| 三味線歌曲に触れたい | 唄と三味線の関係が明快 |
| 発表しやすい曲がよい | 座興にも向きやすい |
端唄は気軽さが魅力ですが、軽い音楽という意味ではなく、短い曲の中で粋な節回しや言葉の運びを自然に見せる難しさもあります。
長唄の舞台性と小唄の内向きな余韻のあいだで迷う人は、端唄を入口にしてから、自分がより華やかな方向へ進みたいのか、より繊細な方向へ進みたいのかを考えると選びやすくなります。
粋な表現を磨くなら小唄
小唄は、声量や華やかさよりも、短い歌詞の中に含まれる感情をどのようににじませるかに関心がある人に向きます。
爪弾きの三味線は音が柔らかく、唄も強く張るより抑えた表現が求められるため、派手な上達をすぐ実感するより、少しずつ味わいを深める稽古になりやすいです。
小唄の魅力は、言葉にしない部分が多いことにあり、聴く人が歌詞の余白や間から心情を受け取るため、年齢や経験によって感じ方が変わる面白さがあります。
ただし、短い曲だから簡単に人前で聴かせられるわけではなく、音程、間、息、言葉の置き方が少しずれるだけで雰囲気が変わるため、丁寧な稽古が必要です。
静かな表現、江戸の粋、近い距離で伝わる情緒に惹かれるなら、小唄は長く続けるほど魅力が増すジャンルになります。
よくある誤解をほどく

長唄、端唄、小唄は名前が似ているため、初心者ほど漢字の印象や曲の長さだけで判断しがちです。
しかし実際には、長いか短いか、撥か爪弾きか、舞台か座敷か、歴史的にどの流れにあるかを組み合わせて見なければ正確に理解できません。
ここでは、混同されやすい誤解を整理し、鑑賞や稽古で迷わないための見方を確認します。
小さい唄の総称ではない
小唄という名前を見ると、ただ短い唄や小さな唄の総称だと思いやすいですが、現在の小唄は一つのジャンルとして扱われる音楽です。
たしかに小唄は短い曲が中心で、端唄を母体にした流れを持ちますが、爪弾き、座敷性、粋な歌詞、余白を生かす唄い口が組み合わさって独自の世界を作っています。
| 誤解 | 実際の見方 |
|---|---|
| 小唄は短い唄すべて | 爪弾き中心の一ジャンル |
| 端唄と同じもの | 母体は近いが表現が違う |
| 短いから簡単 | 余韻を作る技術が必要 |
| 声を出さないだけ | 抑えた声の表現が重要 |
小唄を理解するには、曲の短さではなく、短い中でどれだけ言葉の裏側を聴かせるかという表現の方向に注目する必要があります。
その視点を持つと、端唄の明るい親しみやすさと、小唄の抑えた粋の違いが自然に感じられるようになります。
曲名だけでは判断しない
長唄、端唄、小唄を曲名だけで判断しようとすると、同じ題材や似た言葉が別ジャンルで扱われることもあるため混乱しやすくなります。
邦楽では、一つの言葉や情景が複数のジャンルに取り込まれることがあり、曲名の響きが似ていても、演奏様式や伝承の系統が異なる場合があります。
- 演奏会の分類を見る
- 唄方や三味線方の表記を見る
- 囃子の有無を見る
- 撥弾きか爪弾きかを見る
- 舞踊伴奏か座敷唄かを見る
特に公演案内では、曲名の横に長唄、端唄、小唄といったジャンル名が書かれていることが多いため、題名だけで判断せず分類表記を確認するのが確実です。
動画や音源で調べる場合も、タイトルだけでなく演奏者の所属、解説文、楽器編成を合わせて見ると、誤解を減らせます。
三味線だけで決まらない
長唄、端唄、小唄はいずれも三味線が関わるため、三味線を使っているかどうかだけではジャンルを判断できません。
同じ細棹三味線が使われる場合でも、撥弾きで舞台の響きを作るのか、撥弾きで短い江戸唄を軽快に支えるのか、爪弾きで近い空間の余韻を作るのかによって音楽の性格は変わります。
また、長唄では囃子や舞踊との関係が重要になり、端唄では歌詞の親しみやすさや短い曲のまとまりが重要になり、小唄では言葉の含みや間が重要になります。
つまり三味線は共通点であって決定打ではなく、演奏場面、奏法、歌詞、編成、目的を総合して見ることが大切です。
初心者が聞き分けたい場合は、まず舞台的で華やかなら長唄、短く明るい江戸唄なら端唄、音が柔らかく余韻が深いなら小唄という仮説を立てて聴くと判断しやすくなります。
三つの違いを知ると邦楽が聴きやすくなる
長唄、端唄、小唄は、名前だけを見ると似た三味線歌曲に見えますが、長唄は歌舞伎舞踊と結びつく舞台の音楽、端唄は江戸の町で親しまれた短い流行歌、小唄は端唄を母体に座敷の近い距離で余韻を磨いた音楽として整理できます。
見分けるときは、曲の長さだけに頼らず、演奏される場、三味線の弾き方、囃子の有無、歌詞の距離感、稽古の目的を組み合わせて考えることが重要です。
舞台の華やかさや日本舞踊との関係を味わいたいなら長唄、短い曲で江戸情緒に親しみたいなら端唄、爪弾きの柔らかさや粋な余白に惹かれるなら小唄を入口にすると、自分に合う楽しみ方を見つけやすくなります。
三つの境界を知ることは、どれか一つを選ぶためだけでなく、歌舞伎、舞踊、寄席、座敷、江戸の町人文化がどのように音楽を育てたのかを理解する手がかりにもなります。
最初は一覧表のように大まかに捉え、気になる曲を実際に聴き比べ、音の輪郭、言葉の含み、空間の広がりを感じていけば、長唄、端唄、小唄の違いは知識ではなく耳で納得できるものになっていきます。



