日本が世界に誇る最古のオーケストラ、雅楽(ががく)。神社仏閣の行事や結婚式などで、独特の澄んだ音色を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。しかし、実際にどのような楽器が使われているのか、その名前や役割まで詳しく知っている方は少ないかもしれません。
雅楽には、1,000年以上の歴史の中で受け継がれてきた独特の楽器たちが数多く存在します。それぞれの楽器には「天・地・空」を象徴する意味が込められており、それらが重なり合うことで唯一無二の宇宙観を表現しているのです。
この記事では、雅楽で使われる楽器を一覧形式で詳しく解説します。初心者の方でも分かりやすいように、楽器の種類や音色の特徴、そして演奏における役割を整理しました。この記事を読めば、次に雅楽を聴くときの楽しみがぐっと深まるはずです。
雅楽で使われる楽器一覧!3つの大きなグループとその特徴

雅楽の合奏で使用される楽器は、音を出す仕組みや役割によって大きく3つのグループに分けられます。西洋のオーケストラが弦楽器、管楽器、打楽器で構成されているのと似ていますが、雅楽ならではの呼び方や分類方法があります。
管楽器(吹き物):メロディーと和音を司る主役
雅楽において、主旋律や響きの核となるのが管楽器です。これらは「吹き物(ふきもの)」と呼ばれ、雅楽の音色の第一印象を決定づける非常に重要な存在です。代表的なものに、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)の3種類があり、これらは「三管(さんかん)」と総称されます。
これらの三管は、それぞれが宇宙の要素を象徴していると言われています。天から差し込む光、地上に生きる人々の声、そしてその間を駆け巡る龍の鳴き声。これら三つの音が混ざり合うことで、一つの宇宙が完成すると考えられているのです。吹き物は、雅楽の精神性を象徴する楽器群といえるでしょう。
管楽器は単に音を出すだけでなく、独特のビブラートや「塩梅(あんばい)」と呼ばれる音程の変化を駆使して演奏されます。この繊細な表現が、雅楽特有の幽玄(ゆうげん)な雰囲気を生み出しています。幽玄とは、言葉では言い表せない奥深く微妙な趣のことです。
弦楽器(弾き物):リズムとハーモニーを支える脇役
弦楽器は「弾き物(ひきもの)」と呼ばれ、雅楽においては主にリズムを整えたり、楽曲の節目を強調したりする役割を担います。現代の音楽のようにずっとメロディーを弾き続けるのではなく、点と点を打つような独特の奏法が特徴です。代表的な楽器には、楽琵琶(がくびわ)と楽筝(がくそう)があります。
これら二つの楽器は、管楽器が奏でる流れるような旋律に対して、規則正しいリズムを刻むことで合奏の土台を作ります。また、弦楽器の音が入ることで、音楽に奥行きと華やかさが加わります。弦楽器の演奏をじっくり聴いてみると、一定の間隔で決まったフレーズが繰り返されていることに気づくでしょう。
なお、雅楽の合奏形態である「管絃(かんげん)」では弦楽器が欠かせませんが、踊りを伴う「舞楽(ぶがく)」では、屋外での演奏が多いことや踊りの邪魔にならないようにという理由から、弦楽器が省かれることが一般的です。このように演奏形態によって編成が変わるのも面白い特徴です。
打楽器(打ち物):合奏の指揮者とテンポの維持
打楽器は「打ち物(うちもの)」と呼ばれます。雅楽には指揮者が存在しませんが、その代わりに打楽器が合奏の進行をコントロールする役割を果たしています。主要な楽器は、鞨鼓(かっこ)、太鼓(たいこ)、鉦鼓(しょうこ)の3種類で、これらは「三鼓(さんこ)」と呼ばれます。
打楽器はただリズムを刻むだけでなく、曲の開始や終了、テンポの変化などを他の演奏者に伝える重要なサインを出します。特に鞨鼓を演奏する人は、合奏全体をリードするリーダーとしての役割を担っています。重厚な太鼓の音と、澄んだ金属音の鉦鼓、そして小刻みな音を出す鞨鼓の組み合わせが、雅楽の力強さを支えています。
打ち物のリズムは非常にゆったりとしており、最初はどこが拍子なのか分かりにくいかもしれません。しかし、一つひとつの打音には深い意味があり、空間の「間(ま)」を支配しています。この独特の間こそが、日本文化特有の美意識を表現しているのです。
雅楽の楽器分類まとめ
・吹き物(管楽器):笙、篳篥、龍笛など。旋律や和音を担当。
・弾き物(弦楽器):楽琵琶、楽筝など。リズムの骨組みを作る。
・打ち物(打楽器):鞨鼓、太鼓、鉦鼓など。合奏の進行を司る。
天・地・空を表現する「吹き物(管楽器)」の深い世界

雅楽の三管(笙・篳篥・龍笛)は、単なる楽器以上の意味を持っています。それぞれが自然界の異なる階層を表現しており、それらが合わさることで調和が生まれます。ここでは、それぞれの楽器の構造や音色の秘密を深掘りしていきましょう。
笙(しょう):天から差し込む光の響き
笙は、17本の細い竹を円形に立てたような姿をしています。その形が、翼を休めている伝説の鳥「鳳凰(ほうおう)」に見えることから、「鳳笙(ほうしょう)」とも呼ばれます。最大の特徴は、和音を奏でることができる点です。複数の音を同時に鳴らすことで、幻想的な響きを作り出します。
笙の音色は「天から差し込む光」に例えられます。どこまでも澄み渡り、空気全体を包み込むような音です。雅楽の合奏では、この笙が鳴り響くことで空間が清められ、神聖な雰囲気が醸成されます。また、息を吸っても吐いても音が鳴る仕組みになっており、音が途切れることなく持続するのも特徴です。
演奏前には、楽器の中の水分を飛ばすために「炭火」で温める儀式のような光景が見られます。これは、内部にある「リード(音を出す金属板)」のコンディションを整えるためです。冬の寒い時期でも、奏者は丁寧に楽器を温め、天の音を響かせる準備を整えます。
篳篥(ひちりき):地上の人間の声を表現
篳篥は、全長約18センチほどの小さな縦笛です。竹で作られた本体に、大きなリード(「舌」と呼ばれます)を差し込んで演奏します。見た目はコンパクトですが、その音量は非常に大きく、力強いのが特徴です。雅楽の主旋律を担当し、合奏の中核を担います。
篳篥の音色は「地上の人々の声」を象徴しています。人間の喜怒哀楽を表現するかのような、生々しく力強い響きです。特に「塩梅(あんばい)」という、唇の締め方で音程を滑らかに変化させる独特の奏法は、篳篥ならではの魅力です。この技法によって、独特のうねりや感情の揺らぎが生まれます。
リードの素材には、特別な「葭(あし)」が使われます。このリードを自分の吹きやすいように削り、整えるのも奏者の大切な仕事です。篳篥の音は非常に個性的で、初めて聴く人はその迫力に驚くかもしれません。まさに雅楽の「歌」を歌う主役といえる存在です。
龍笛(りゅうてき):天と地を繋ぐ龍の鳴き声
龍笛は、竹で作られた横笛です。七つの指穴があり、広い音域を自由に駆け巡ることができます。その名の通り、「天と地の間を自在に飛び交う龍の鳴き声」を表現しています。笙が天、篳篥が地を表すのに対し、その二つの世界を繋ぐ役割を果たしているのです。
音色は非常に華やかで、力強さと繊細さを兼ね備えています。篳篥の主旋律に寄り添いながら、時には追い越し、時には装飾的な音を加えて楽曲を彩ります。吹き方によって、鋭く突き抜けるような高音から、深みのある低音まで多彩な表現が可能です。この柔軟さが、合奏に流動的な動きを与えます。
龍笛は、現在日本に伝わっている多くの横笛(神楽笛や能管、篠笛など)の祖先とも言われています。雅楽以外でも使われることがあり、日本人にとって馴染み深い笛の音の原点ともいえるでしょう。龍が空を舞うような、躍動感あふれる旋律に注目してみてください。
高麗笛(こまぶえ)と神楽笛(かぐらぶえ)
雅楽で使われる横笛には、龍笛の他にも「高麗笛」と「神楽笛」があります。これらは演奏されるジャンルによって使い分けられます。高麗笛は、朝鮮半島から伝わった「高麗楽(こまがく)」で使用されるもので、龍笛よりも一回り小さく、非常に高音で鋭い音が特徴です。
一方、神楽笛は日本古来の音楽である「御神楽(みかぐら)」などで使われます。龍笛よりも少し長く、音程はやや低めで、素朴かつ神秘的な響きを持っています。これら三種類の横笛を使い分けることで、それぞれの楽曲が持つ独特の世界観を表現し分けているのです。
「三管」が揃うことで、初めて雅楽の宇宙観が完成します。笙が空間を作り、篳篥が命を吹き込み、龍笛がそれらを結びつける。この絶妙なバランスが、千年続く音楽の秘密です。
リズムと響きを支える「弾き物(弦楽器)」の役割

雅楽における弦楽器は、メロディー楽器ではありません。彼らの仕事は、楽曲にリズムの骨組みを与え、響きを豊かにすることです。ここでは、雅楽を構成する主要な弦楽器について、その特徴を解説します。
楽琵琶(がくびわ):力強いアクセントと重厚な響き
楽琵琶は、4本の弦を持つ弦楽器です。一般的な琵琶(平家琵琶や薩摩琵琶など)のルーツであり、雅楽で使用されるものは「楽琵琶」と呼びます。大きな撥(ばち)を使って、弦を一度に掻き鳴らすように弾くのが特徴です。その音は非常に力強く、合奏の中に鋭いアクセントを刻みます。
役割としては、楽曲の拍子(リズムの区切り)を強調することにあります。メロディーを奏でるのではなく、決まった位置で「ジャーン」という短いフレーズを奏で、テンポの基準を示します。この音が鳴ることで、他の奏者は曲の進行を再確認することができるのです。いわば、リズムの門番のような存在です。
楽器の背面には、美しい模様や「撥面(ばちめん)」と呼ばれる装飾が施されていることが多く、工芸品としても非常に価値が高いものです。演奏中の所作も洗練されており、撥を振り下ろす動作一つひとつに伝統の重みが感じられます。
楽筝(がくそう):流れるような水の響き
楽筝は、現在の「お琴(こと)」の原型となった楽器です。13本の弦が張られており、右手の指に爪をはめて弾きます。お琴とよく似ていますが、雅楽で使われるものは本体がやや大きく、より古風で重厚な音が鳴るように作られています。奏法も、雅楽独特の様式が決まっています。
楽筝の役割は、アルペジオ(分散和音)のようなフレーズを弾き、リズムに華を添えることです。細かい音の粒が重なり合う様子は、しばしば「さらさらと流れる水」に例えられます。琵琶が力強い点だとすれば、筝はその間を繋ぐ煌びやかな線といえるでしょう。この二つの弦楽器が重なることで、リズムが立体的に聞こえてきます。
基本的には、管楽器のメロディーを後から追いかけるような形で、拍子の節目ごとに決まった音形を繰り返します。派手な動きはありませんが、筝の音があることで、音楽全体に上品な潤いが与えられます。落ち着いた佇まいで奏でられるその音色は、聴く人の心を静めてくれます。
和琴(わごん):日本古来の聖なる響き
和琴は、大陸から伝わった筝とは異なり、日本で独自に生まれた6弦の琴です。「大和琴(やまとごと)」とも呼ばれます。雅楽の中でも、特に日本古来の歌舞である「神楽(かぐら)」や「東遊(あずまあそび)」といった儀式的な楽曲で使用される、非常に格式の高い楽器です。
形は素朴で、琴の頭に「額」と呼ばれる突起があるのが特徴的です。音色は、楽筝に比べると非常にシンプルで力強く、原始的な生命力を感じさせます。弦を一本ずつ丁寧に弾くことで、神々への祈りを込めるかのような響きを奏でます。現在でも、宮中の重要な儀式には欠かせない存在です。
合奏の合図を出しリズムを刻む「打ち物(打楽器)」

雅楽の打楽器は、単にリズムを刻むだけでなく、曲の「構造」を作り上げる建築家のような役割を担っています。指揮者のいない雅楽において、彼らがどのように息を合わせ、音楽を導いているのかを見ていきましょう。
鞨鼓(かっこ):合奏全体のリーダー(指揮者)
鞨鼓は、円筒形の胴の両側に革を張った、小さな太鼓です。台の上に横向きに置き、両手に持ったバチで演奏します。この楽器を演奏する人は「鞨鼓正(かっこしょう)」と呼ばれ、合奏のリーダーとしての役割を務めます。曲の開始の合図を出し、テンポを速めたり緩めたりする権限を持っています。
特徴的な奏法に、バチで細かく連打する「攅(あふ)」などがあります。この細かな音の動きが、合奏全体に緊張感と躍動感を与えます。他の奏者は、鞨鼓の出すわずかな音の変化を聴き取り、それに合わせて演奏を調節します。まさに、音による指揮を行っているのです。
非常に集中力が必要な役割であり、高い技術と音楽的知識が求められます。鞨鼓が鳴り始めると、会場の空気がピリッと引き締まります。雅楽を聴く際は、まずこの鞨鼓の音に注目して、曲がどのようにコントロールされているかを感じてみてください。
太鼓(たいこ):重厚な響きで節目を告げる
雅楽で使われる太鼓は、大きく分けて二種類あります。一つは「釣太鼓(つりだいこ)」、もう一つは舞楽の際に使われる巨大な「大太鼓(だだいこ)」です。どちらも美しい装飾が施されており、視覚的にも非常に存在感があります。重厚で深い音が特徴で、楽曲の大きな節目を打ち鳴らします。
太鼓の役割は、拍子の基本となるアクセントを刻むことです。例えば、4拍子や8拍子の「1拍目」を大きく打つことで、曲の骨組みを明確にします。この音が鳴ることで、音楽に安定感が生まれます。また、舞楽での大太鼓は、踊り手の足拍子と連動し、舞台をダイナミックに演出します。
太鼓の音は、物理的な音量だけでなく、心に響くような荘厳さを持っています。その一打には、邪気を払い、場を清める力があると信じられてきました。単なる楽器という枠を超え、神聖な道具としての側面も強く持っているのが雅楽の太鼓です。
鉦鼓(しょうこ):金属音でリズムを強調する
鉦鼓は、青銅で作られた皿のような形の楽器を、枠に吊るしたものです。金属製のバチで、内側の底を叩いて音を出します。三管の吹き物や太鼓、琵琶などの木や竹の音の中に、鋭い金属音が加わることで、サウンド全体が引き締まります。キラリと光るアクセントのような存在です。
鉦鼓は、太鼓の打音に少し遅れて、あるいは追いかけるようにして打たれます。これにより、リズムに独特の厚みが生まれます。音程は一定ですが、その澄んだ響きは遠くまでよく通り、屋外での演奏でも重要な役割を果たします。太鼓と鉦鼓が交互に鳴るリズムは、雅楽の心地よい揺らぎを作り出しています。
三ノ鼓(さんのつづみ):高麗楽におけるリズムの核
朝鮮半島由来の「高麗楽(こまがく)」では、鞨鼓の代わりに「三ノ鼓」という楽器が使われます。これは砂時計のような形をした「つづみ」で、左手で紐を締めたり緩めたりして音程を調節しながら、右手一本で叩きます。和楽器の小鼓(こつづみ)に近い構造ですが、よりダイレクトな音がします。
高麗楽は、日本古来のものや中国由来のものに比べて、リズムがより軽快で力強い傾向にあります。三ノ鼓はその中心となり、独特のノリを生み出します。片手だけで複雑なリズムを刻む様子は見応えがあり、高麗楽特有の異国情緒あふれる雰囲気を象徴する楽器といえるでしょう。
打楽器の役割比較
・鞨鼓:リーダーとして合奏の速度や開始を指示する。
・太鼓:重い低音で拍子の区切りを明確に示す。
・鉦鼓:鋭い金属音でリズムに輝きと輪郭を与える。
演奏形態によって異なる!管絃と舞楽で使われる楽器の違い

雅楽には、大きく分けて「管絃(かんげん)」と「舞楽(ぶがく)」という二つのスタイルがあります。音楽を純粋に楽しむのか、踊りに合わせるのかによって、使われる楽器の編成や種類が変わるのが興味深いポイントです。それぞれの違いを整理しましょう。
管絃(かんげん):三管・両絃・三鼓のフル編成
管絃は、座って楽器演奏のみを行う形態です。現代のコンサートのようなスタイルで、主に夜間に楽しまれることが多かったため「夜の音楽」とも称されます。ここでは、三管(笙・篳篥・龍笛)、両絃(琵琶・筝)、三鼓(鞨鼓・太鼓・鉦鼓)のすべてが揃うのが基本です。
弦楽器が入ることで、繊細で複雑な音の重なりを楽しむことができます。室内での演奏を前提としているため、一つひとつの楽器の細かなニュアンスや、各楽器の対話のような構成が重視されます。静寂の中に響く、弦の弾ける音や笛のゆらぎをじっくり味わうのが管絃の醍醐味です。
また、管絃では「音頭(おんど)」と呼ばれるパートリーダーが各楽器におり、その人たちが最初に音を出すことで曲が始まります。弦楽器が含まれることで、音楽としての完成度が非常に高まり、情緒豊かな世界観が構築されます。
舞楽(ぶがく):踊りを引き立てる力強い編成
舞楽は、豪華な装束を身にまとった舞人が、音楽に合わせて踊る形態です。多くは屋外の舞台で演奏されます。そのため、繊細な音の弦楽器(琵琶・筝)は省かれ、管楽器と打楽器のみの編成となります。これは、弦楽器の音が外では聞こえにくいことや、力強いリズムが必要とされるためです。
舞楽では、踊りの動きと音楽が密接にリンクしています。例えば、舞人が足を強く踏む瞬間に太鼓が鳴ったり、動きが激しくなるにつれて管楽器の吹き方も力強くなったりします。弦楽器がない分、リズムのインパクトが強まり、ダイナミックなパフォーマンスを支える音作りがなされています。
さらに、舞楽は「左舞(さまい)」と「右舞(うまい)」に分かれます。左舞はインドや中国から伝わったもので、龍笛が使われます。対して右舞は朝鮮半島から伝わったもので、高麗笛と三ノ鼓が使われるという厳格な区別があります。この使い分けによって、作品のルーツを表現しているのです。
左舞と右舞で変わる楽器構成の一覧
舞楽における「左」と「右」の違いを、楽器の観点から表にまとめました。これを知っていると、舞台上の楽器を見ただけで、今から行われるのがどちらの系統の舞なのかを判断できるようになります。
| 項目 | 左舞(さまい) | 右舞(うまい) |
|---|---|---|
| 主な由来 | 中国、インド、ベトナムなど | 朝鮮半島、渤海など |
| 装束の色 | 赤系統が基本 | 緑・青系統が基本 |
| 主要な横笛 | 龍笛(りゅうてき) | 高麗笛(こまぶえ) |
| 主な和音楽器 | 笙(しょう) | 基本的には使わない |
| リード打楽器 | 鞨鼓(かっこ) | 三ノ鼓(さんのつづみ) |
このように、系統によって楽器の種類が完全に分かれています。左舞は笙の和音が入ることで華やかで優雅な印象になり、右舞は笙を使わず高音の笛と三ノ鼓のリズムが際立つ、より素朴で躍動的な印象になります。この対比も雅楽の奥深い楽しみの一つです。
雅楽で使われる楽器をより深く知るためのQ&Aと豆知識

楽器の基本的な一覧を把握したところで、さらにもう一歩踏み込んだ知識を身につけましょう。雅楽の楽器には、歴史の長さゆえに興味深いエピソードや独自の習慣がたくさんあります。意外と知らない「雅楽の裏側」をご紹介します。
Q:雅楽の楽器は昔から形が変わっていないのですか?
A:驚くべきことに、その多くが1,000年以上ほとんど形を変えていません。正倉院(しょうそういん)には、奈良時代に実際に使われていた雅楽の楽器が今も保存されていますが、それらと現代の楽器を比べても構造的な違いはわずかです。一つの楽器がこれほど長期間、形を変えずに演奏され続けている例は、世界的に見ても非常に稀です。
もちろん、細かな改良や素材の変化はありますが、基本的な音を出す仕組みや姿形は当時のままです。つまり、私たちが今聴いている雅楽の音は、平安時代の人々が聴いていた音とほぼ同じものだといえます。雅楽を聴くことは、まさに「音のタイムトラベル」をしているような体験なのです。
演奏前の準備「取調(とりしらべ)」の大切さ
雅楽の演奏会に行くと、曲が始まる前にパラパラと音を出している場面に遭遇することがあります。これは単なる練習ではなく、「取調(とりしらべ)」と呼ばれる大切な準備時間です。雅楽の楽器は天然素材(竹、革、漆など)でできているため、その日の気温や湿度に非常に敏感です。
特にリード楽器の篳篥やお茶で温める必要がある笙などは、入念な調整が必要です。奏者たちはこの時間を使って、自分の楽器のコンディションを確かめると同時に、周囲の音を聴いて全体の調和を確認します。この「合わせる時間」があるからこそ、指揮者がいなくても息の合った合奏が可能になるのです。
雅楽の楽譜はどうやって書かれている?
雅楽にも楽譜が存在しますが、五線譜ではありません。和紙に墨で書かれた「唱歌(しょうが)」と呼ばれる独特の譜面を使います。面白いのは、楽譜には「音の高さ」だけでなく、その音をどう口で唱えるかという「カタカナ」が中心に書かれている点です。
奏者は楽器を習う前に、まずこの楽譜を声に出して歌う「唱歌」の練習を徹底的に行います。メロディーやリズムを完全に体の中に染み込ませてから、ようやく楽器を手に取ります。この伝統的な学習法によって、楽譜には書ききれない微妙なニュアンスや「間」が、師匠から弟子へと正しく受け継がれていくのです。
雅楽の楽器は、すべてが「自然のもの」から作られています。煤竹(すすだけ)や鹿の革、漆、絹糸など、自然の恵みを最大限に活かした楽器だからこそ、聴く人の心を落ち着かせる癒やしの効果があるのかもしれません。
雅楽で使われる楽器一覧まとめ:千年の響きを受け継ぐ伝統の音
いかがでしたでしょうか。この記事では、雅楽で使われる楽器一覧とその役割について詳しくご紹介しました。雅楽は、単なる古い音楽ではなく、それぞれの楽器が宇宙や自然の要素を象徴し、緻密な計算と伝統の上に成り立つ高度な芸術です。
最後に、主要な楽器のポイントを振り返ってみましょう。
三管と呼ばれる吹き物の「笙(天)」「篳篥(地)」「龍笛(空)」が重なり合い、空間を創り出します。そこに、リズムの骨組みを作る「琵琶」や「筝」といった弦楽器が加わり、さらに「鞨鼓」「太鼓」「鉦鼓」の打楽器が全体の進行を導く。これが雅楽の基本的な仕組みです。
次に雅楽を耳にする機会があれば、ぜひ目の前の楽器がどれに当たるのか、どんな音色を響かせているのかを意識して聴いてみてください。楽器たちの背景を知ることで、1,000年以上前から変わらない「伝統の響き」が、より鮮やかに心に届くようになるはずです。日本の豊かな文化遺産である雅楽を、これからも大切に楽しんでいきましょう。



